なぜ歯科の保険治療は
“再治療”を繰り返すのか
——私が自費治療をおすすめする理由。
「ちゃんと治したら、患者が来なくなるぞ。」
若いころ、あるベテラン医師にそう言われたことがあります。
その言葉を聞いた瞬間、心の中がざわつきました。
「わざと手を抜いて再治療を歓迎するのが、歯医者という仕事なのか。」
強い嫌悪感として今でも記憶に残っています。
しかし歯科の現場では、こうした言葉が現実になってしまうことがあります。
なぜなら、保険の治療では「丁寧に治しても、雑に治しても報酬が同じ」だからです。
医科と歯科の大きな違い

内科や皮膚科、耳鼻科、眼科などの医科では、保険の範囲で最善の治療を受けられることが多いです。
薬や手術でも、保険で十分に完治できるケースがほとんどです。
多少医師が手を抜いたとしても、人間の自然治癒力が病気を治してくれることもあります。
ですから、「保険治療でも健康上は問題ない」という感覚を持つのは当然だと思います。
しかし、歯科だけは事情が違います。
歯科に“自然治癒”はない

歯は治療のために歯を削ります。
そして歯を削ったあとは、詰め物や被せ物を作って装着します。
その工程は、
- 歯型を取る
- 技工士さんが詰め物を作る
- 歯にぴったりと接着する
という流れで進みます。
この中で、ひとつでも精度が低いと、詰め物がほんのわずかにズレてしまいます。
歯は削ると、決して元には戻りません。
それだけでなく、口の中は常に細菌が存在し、食事をするたびに細菌はそれをエサにして酸を生み出します。
酸は虫歯の原因です。
歯と詰め物の間に隙間があれば、そこに取れない汚れが溜まって虫歯を作ってしまいます。
そのため、どれだけ丁寧に歯磨きをしても“ズレ”は虫歯の再発につながります。
この“ほんの少しのズレ”が、数年後の再治療を生み出すのです。
約5年で再治療になる理由
治療直後は問題がなくても、歯と詰め物の間にできたわずかな隙間から細菌が侵入します。
3年〜5年ほどで作り直しが必要になることも、決して珍しくありません。
とくに重要なのは、詰め物を作る歯科技工士さんの技術です。
しかし、保険の範囲内では、どれだけ丁寧に作っても報酬が変わらないため、 技工士さんは量をこなすことでしか生活が成り立たない現状があります。
“上手に作っても、下手に作っても報酬は同じ”。
この構造の中で、「そこそこの精度の治療」が当たり前になってしまうのは、ある意味で必然です。
私が“自費治療”をすすめる理由
私は、患者さんが歯科にかける時間を減らすことを目指しています。
だからこそ、「再治療ありき」の保険治療には強い疑問を感じています。
自費治療は、見た目をよくするための“高価な選択肢”ではなく、自分の歯を長く守るための最も合理的な方法です。
私が自分自身や家族の歯を治すなら、迷わず自費治療を選びます。
一度しっかり治せば、再治療のために時間もお金も使わずに済むからです。
また自費治療ならどこでもいい、というわけではありません。
治療の「質」を見極めることが、何よりも大切です。
本気で歯を治したい人のために
もちろん、保険治療で十分に対応できる治療もあります。
小さな虫歯や歯石除去、抜歯などはその代表です。
ですが、上記の通り保険治療の詰め物は十分な治療とは言えません。
ブリッジに関しては、むしろ入れない方がマシなのではないか、と思うほどです。
「これを保険でやっても、5年後にはまた再治療になるんだな」と感じながらの治療は、なるべくしたくありません。
私は、ただ多くの患者さんを診ることを目的にしていません。
私の時間も限られています。
だからこそ、「本気で歯を治したい」と思っている方のために、その時間を使いたいのです。
歯を守ることは、人生の時間を守ること。
治療を繰り返す人生ではなく、「もう歯医者に治療に行かなくていい」人生を過ごしてほしい。
そのために、私はこれからも“時間を奪わない治療”を追求し続けます。