保険治療といえど譲れないもの
はじめに
“保険だからこそ”大切にしている基準
保険治療は、どうしても材料や方法に制限があります。
そのため、長持ちする治療になりにくい場面があることは、以前のコラムでもお伝えしました。
だからこそ、そんな治療を「なんでもやるべき」とは私は思いません。
治療することで今より確実に良い方向へ進むと判断できるものだけを、患者さんにはご提案したいと思っています。
ここでは、その理由と、具体的な例を3つご紹介します。
① 根管治療
成功率の差は“治療環境”で生まれる
日本の根管治療は、世界と比較すると成功率が低いと言われています。
理由の一つは、治療中に唾液とともに細菌が歯の中へ入りやすい環境にあるためです。
詳しくはこちらをご覧ください。
ラバーダムの重要性

世界的には根管治療の標準である「ラバーダム」が、日本ではあまり普及していません。名前も聞いたことがない方がほとんどです。
ラバーダムは、歯を唾液から隔離し、治療の成功率を上げるための基本的な器具です。
当院では、こうした理由からラバーダムを使用した根管治療を推奨しています。
保険治療であってもこれだけは譲れない部分があります。
② 初期虫歯

“削らない方が安全”なケースもある
医療では一般的に「早期発見・早期治療」がよいとされます。
しかし、虫歯だけは少し事情が違います。
初期虫歯は“経過観察”の方がメリットが大きいことも
初期虫歯は、黒く見えていても表面が硬く、削らずに様子を見ることで問題なく過ごせる場合が多くあります。
もし削って人工物で補うと、歯と詰め物の境目から再度虫歯が発生しやすくなるリスクが生まれます。
そのため私は、「見た目をどうしても改善したい」という理由以外では、初期虫歯の治療は積極的にすすめていません。
“ほくろ”に似ています
ほくろも医学的には腫瘍に分類されますが、早期に切除した方が良いわけではありませんよね。
初期虫歯も、それとよく似ています。
病名は確かに虫歯です。
だから歯科検診でも虫歯です、といわれるかもしれません。
しかし“虫歯はすべて治療が必要とは限らない”ということを知っていただきたいです。
③ 抜歯

抜けば良いわけではない
歯を抜くと、周囲の骨が自然に痩せていきます。
その結果として、
- インプラントが難しくなる
- 入れ歯が安定しにくい
- 隣の歯がしみやすくなる
などの影響が出ることがあります。
症状がなければ“あえて抜かない”という選択肢
治療の方法がなく抜歯しかないように見える歯でも、痛みや腫れがなく、周りの歯に影響がない場合は、あえて抜かずに経過を見ることも選択肢に入れています。
「抜くことでかえって不利になる」場合があるためです。
まとめ
治療しない選択も“患者さんの利益のため”
保険治療が長持ちしないからこそ、治療をしない方がよいケースが確かに存在します。
もちろん、治療をしないということは当院の収入にはつながりません。
それでも私が重視しているのは、「自分が受けたいと思える治療だけを提供する」ことです。
患者さんにとって本当にプラスになる選択を、これからも丁寧にお伝えしていきたいと思います。